Archive for 2020年10月26日

10月26日(月)放送分


石巻市北上町
WE ARE ONE北上 コミュニティナース
藤沢 智子アナウンサー 取材リポート

以前もこの番組内でご紹介した、石巻市の北上地区で地域再生のために住民の女性を中心に活動している「WE ARE ONE北上」という団体が取り組む「コミュニティナース」の活動について取材しました。
「コミュニティナース」とは、医療機関や訪問看護に従事する看護師とは違い、地域の中で住民と交流し寄り添いながら、その専門性や知識を生かして活動するナース、医療人材です。
WE ARE ONE北上の代表・佐藤尚美さんは、コミュニティナースについて、初めは地域の住民の方々が元気でい続けるために取り組み始めました。健康医療だけでなく、社会性もしっかりと持ち続けてもらえるように、街の保健士さんのような、気軽に話をできる存在を目指しました。
実際に地域おこし協力隊の募集によってコミュニティナースとなった方の中には、大分県出身の女性・平野亜紀さんもいらっしゃいます。平野さんはそれまで九州以外で働いたことはありませんでしたが、北上地区の人柄に惹かれたとお話しされていました。出会いから出会いが生まれた瞬間なのだと思いました。
コミュニティナースの仕事には正解はありません。平野さんはコミュニティナースとしての地域への関わり方を自分なりに考え、現在では一対一の個別で関わる在り方を大切にしています。その中でも特に、地域の中での気づきを共有し、住民の方へのサポートをしていきたいということです。
また、身近な人には言えない話を聞く役割としてもWE ARE ONE北上を知ってもらいたいといいます。支える側・支えられる側の区別をなくし、地域のつながりを可視化することを目的とされています。
お年寄りの生活スタイルが変化していく中で、社会性を担保することは行政では限りがあるため、事業化していかなければいけませんが、継続的な活動を維持するため、経済的にどのように支えていくかが課題です。限られた時間の中での、平野さんのこれからの活動に注目していきたいと思います。

10月19日(月)放送分

仙台市若林区 トレビ不動産
才津和夫さんへのインタビュー
後藤 舜アナウンサー 取材レポート

若林区にある「トレビ不動産」の才津和夫さんを取材しました。才津さんは長崎の五島列島出身で、東京での生活を経て宮城に移住してきました。
才津さんが不動産会社をオープンしたのは、2012年。震災前までは多賀城市明月で「トレビアンランチ」という弁当屋を営んでいましたが、震災によって大きな被害を受け、震災後に資格を取って不動産の仕事を始めました。
震災発生時、才津さんは利府町にいて、先に避難した人たちからの知らせを受け、間一髪で津波から逃れました。家族は無事でしたが、会社は壊滅的な被害を受け、再開するのを諦めました。
奥様からの助言で、宅建の資格を取る、という没頭できることを見つけ、少しずつ前を向き始めることができた才津さん。震災翌年の2012年6月に拠点を仙台市に移し、「トレビ不動産」を開業しましたが、震災でダメージを受けた多賀城市と仙台市では大きな温度差を感じたといいます。そんな中でも、仙台市若林区で開業を決めたのは、周囲の同業他社の方の支援や指導などがあったからだそうです。
不動産会社を始めて8年が経過し、才津さん自身、会社のある薬師堂周辺の街並みの変化を感じています。新しい建物や大型店舗が増え、住みやすくなりました。たとえ街並みは変わっていったとしても、地域に密着している不動産会社として頑張っていきたいとお話しされていた才津さん。震災後周囲の環境が大きく変化する中でも頑張ってこられたのは周囲の方々のおかげだとおっしゃっていたのがとても印象的でした。

10月19日(月)放送分

山元町 震災遺構中浜小学校
長南 昭弘ディレクター 取材レポート

山元町の「旧中浜小学校」が震災の伝承施設「震災遺構」として開館し、一般公開が始まりました。震災当時、校舎にいた児童や教師など90人が屋上に避難し、全員が無事救助されました。当時校長だった井上剛(たけし)さんは避難指定場所への移動は不可能と判断し、校舎屋上への非難を決断しました。井上さんは現場で判断することの難しさを痛感したといいます。数少ない情報の中でその場にいた全員が助かったのは、頑丈な建物と、地元の方の備えとして、工事中に2メートルのかさ上げが行われていたからでした。90人もの命を守った校舎は、当時の人々の気持ちに寄り添うことができる、地域の方々の心の拠り所となっています。
震災後、住んでいた場所に近づくことができないという方々も多くいらっしゃいます。いつの日か故郷の記憶をたどる道標として校舎の存在を広く受け入れてもらい、震災の伝承に繋がっていけばいいなと感じました。

10月12日(月)放送分

丸森町
大槻博さんへのインタビュー
熊谷 望那アナウンサー 取材リポート

去年10月の台風19号の上陸から1年が経った丸森町で取材を行いました。以前ラジオカーの取材で出会った大槻博さんにお話を伺いました。大槻さんは斉理屋敷の近くで大槻サンゲという「素泊まりの宿」を営む他に、NPO法人「あぶくまの里山を守る会」のメンバーとして森林・生物の多様性を学ぶ講座を開いたり、里山の暮らしに触れてもらうためのワークショップなどを行っています。
去年の10月12日。新聞配達の仕事もしている大槻さんは、新聞配達に出かける夜中の12時半ごろに水害に巻き込まれました。すぐに高台に避難し、腰まで水に漬かりながらも消防団に助けられました。
朝になり、変わり果てた町の姿を目にした大槻さん。幸いにも大槻さんの営む宿には大きな被害はなかったため、すぐに炊き出し活動を始めました。1月からは被災した自宅で生活を続ける「在宅被災者」への支援として「まるもり屋台や」を始め、無料でラーメンを届けてきました。コロナウイルスの影響が大きくなる中だからこそ、在宅被災者の自宅を一軒一軒廻り、支援を続けています。
さらにこの夏、大槻さんは新たな取り組みとして、田んぼを始めました。街中田んぼと名付け、稲刈りは地域の子供たちと行いました。
大槻さんご自身も台風19号で被災しながらも、常に周りの人や地域のことを考えて、笑顔を増やすアイデアを実行されています。その原動力は、困っている人を助けたいという気持ちだといいます。
大槻さんの周りにはそんな思いに共感する仲間が集まります。大槻さんの周りにはいつも笑顔があふれています。被災者に目も向ける姿勢を持ち続けて、綺麗で癒しの里山を守り続ける大槻さんにこれからも会い続けたいと思います。

10月5日(月)放送分

仙台市小学5年生
堀内津麦さんへのインタビュー
三浦 菜摘アナウンサー 取材リポート

仙台市の小学5年生 堀内津麦(つむぎ)さんによる、防災への取り組みについて取材しました。その取り組みとは、“物語を書くこと”です。今年4月、津麦さんが書いた物語『灯かりが消えた夜に』が、アンデルセンのメルヘン大賞という童話コンクール・こども部門で入賞しました。物語は、去年の台風19号や東日本大震災を題材にしています。
小さいころから物語を書くのが大好きだった津麦さん。この作品を通して、実際に災害を経験していない子供が、防災について考えるきっかけになってほしかった、と話してくれました。また、作品には災害への備えの意識を高めてほしい、という思いも込められています。
小学生ながら防災意識が高いのは、日頃から、お母さんの睦乃さんから、東日本大震災の話を聞いていたからでした。
また、防災について考えることで生まれた、津麦さんの“自然を大切にしたい”という思いは、作品の中にも込められています。その象徴が“星”。物語でも、様々な場面でその“星”が登場しました。それは、“不安な中で見る星空は安心に繋がった”という睦乃さんの震災当時の話を聞いたことがきっかけでした。
津麦さんは「今のコロナの状況を、これから生まれてくる子供たちに伝えたい」と言います。経験した人が、次の世代に伝えていく。こうした“伝承”が、いつ起こるかわからない災害で、少しでも被害を減らすことにつながるのではないかと感じました。

〈第37回アンデルセンのメルヘン大賞 堀内津麦さんの作品 「灯かりが消えた夜に」〉
台風が街中の灯りを消した夜、ゆうじ君は真っ暗で本も読めないので、ため息をつきながらふと夜空を見上げました。
「あれ?こんなに星があったっけ?」
今まで見たことのないほど、夜空には星がたくさんまたたいていたのです。すいこまれそうなほどかがやく美しい星たちは、見ていてあきません。どのくらいの時間がたったのでしょう。まどから部屋に目をやると、ゆうじ君の家族はみんな一つの部屋でねてしまっていました。つけっぱなしのラジオからは、また新しい台風が発生したと言っています。ねている家族を見てほっとすると、また空に目をやりました。すると、星空がとつぜんぐるぐるとまわりだしたのです。そして真ん中に集まったと思ったら一本の線になり、その線は長い行列になってだんだんとゆうじ君の方に向かってきました。その長い行列は、おおくまざやさそりざなどのたくさんの星ざたちでした。ゆうじ君は、思わず一番後にならびました。
「どこに行くの?」
ゆうじ君は前にいたこぐまざに聞きました。
こぐまざは
「えっとね、風の神様エウロス様に台風を消してもらうようにおねがいしに会いに行くんだ。」
ゆうじ君はギリシャ神話が好きだからエウロス様のことを知っていました。星ざたちの行列は、だんだんと夜空に大きな円を作りました。秋の代表の星ざペガサスが前に出てきました。何が起こるのだろうとゆうじ君がきょろきょろしていると、円の真ん中に、風神とエウロスがあらわれました。
二人は
「わしのほうが強い!」
「いいや、わたしのほうが強い。」
などとどちらが強いか言いあらそっていました。ペガサスがけんかを止めに入りました。
「どうかけんかをおやめくださいませ。あなた達のけんかで大きな台風ができて、とても大きなさいがいがおこっています。だから・・・」
ペガサスがそう言ったとたん風神が
「やはりわしのほうが強かったのじゃ。」
とエウロスに言いました。エウロスは顔を真っ赤にして
「なんだと!その台風はわたしが起こしたのだ!」
二人のけんかはいつまでたっても終わりません。ゆうじ君は自分のことしか考えない二人を見て
「もうやめてよっ。早く台風を消してよ。こっちは大変なんだよ。一階は水でびちゃびちゃになって、家族みんなで二階の部屋でねてるんだ。学校にもいけないんだぞ。」
と二人に大きな声で言いました。その声を聞いた星ざたちは、おどろいてゆうじ君を見て言いました。
「人間がなぜここにいる!わたし達が見えるのか!」
他の星ざたちもざわざわしています。そんなことも気にせず、ゆうじ君は二人に
「けんかしないで早く台風を消してよ。」
何度もたのんでいると、こぐまざが
「そうだよ。けんかよりもまずは台風を消してよ。台風を消さなきゃぼくたち星ざたちは雲でかくされて、見てもらえなくなる!」
そうなのです。星ざたちは地上にいる人たちに星を見てもらうのが仕事なのです。そのことを思い出したかのように、口ぐちに星ざたちがそうだ、そうだと言いだしました。
「そもそもは、人間達が地球を大切にしないのがいけないんだろ。そんな人間のたのみをやすやすと聞くか!」
風神が言うとゆうじ君は
「それはちがうよ。たしかにゴミを道に捨てたりする人もいるけど、そんな人だけじゃないよ。海や森を大切にしている人だっているんだ。ぼくは地球を大切にするよ、地球と仲良くなるよ。やくそくするから、だからおねがい!台風を消して。」
必死にお願いするゆうじ君を見て、エウロスは小さくため息をつくと、
「わかった。台風を消そう。ただし、これからも地球と友達でいるんだぞ。」
そう言って、けんかをしていた風神とどこかへ消えてゆきました。星ざたちも、けんかがおさまったので元の夜空にまた列をなしてもどって行きました。ゆうじ君は星ざたちとまた会おうとやくそくして家に帰りました。
また街中に明かりがもどり、見える星の数は前と同じようにぐっと少なくなりました。ゆうじ君の家のかたづけももうすぐ終わりそうです。暗くなった空を見て、ゆうじ君は少しさびしい気持ちになりましたが、ギュッとこぶしをにぎりしめ、地球と友達になってまた夜空のみんなに会うんだと心の中でちかいました。

〈アンデルセンのメルヘン大賞URL〉

https://www.andersen-group.jp/meruhen/