Archive for 2022年12月19日

12月19日(月)放送分

東北大学災害科学国際研究所所長 今村文彦教授
仙台市防災・減災アドバイザー 折腹久直さん
根本宣彦アナウンサー 電話インタビュー

北海道沖の千島海溝沿いや三陸沖の日本海溝沿いでM7以上の地震が発生した場合、そのあとにより大きな地震が起きる可能性があるとして、政府は今月16日から注意を呼び掛ける「北海道・三陸沖後発地震注意情報」の運用を開始した。
2つの海溝沿いで想定される地震について、東北大学災害科学国際研究所所長の今村文彦教授に話を聞いた。東日本大震災の経験を受け、特に津波堆積物の分野で研究の成果があがってきた。400年に1回程度巨大な地震、津波が発生している。東日本大震災では、3月11日にM9の地震が起きたが、2日前にもM7クラスの地震が発生し津波注意報も出ていた。このような事例は他にもあった。1週間以内に後発地震が発生した場合には甚大な被害が想定されるため「北海道・三陸沖後発地震注意情報」を発表することになった。
では、注意情報が発表された場合はどのように行動をするべきなのか。仙台市防災・減災アドバイザーの折腹久直さんにうかがった。1つ目は、日頃の備えの再確認、家具の転倒対策、食糧などの備蓄、ライフラインの停止への備え。2つ目は、情報を得る体制を整えておくこと。3つ目は、損壊した建物やブロック塀、崖などのリスクの高い場所に近づかないこと。また、注意情報が発表され、対象エリアの自治体は揺れを感じたり、津波警報が発表されたときは直ちに避難できる態勢をとるように呼び掛ける。避難できる態勢で寝ること、非常持ち出し品の携行が大事である。
そして、いざという時のためにどのようなことができるのか。今村教授は、後発地震について皆で話し合ってほしいと話す。東日本大震災を振り返ると、2日前の地震の際に避難の状況や取り組みの課題を話し合った組織や学校の3月11日の対応は適切であったといえる。後発地震注意情報は日頃からの備えを再確認、再点検する機会だと思ってほしい、と話す。
巨大地震がなかったとしても「空振り」ではなく、防災訓練や防災意識の向上につながる「素振り」であると捉えて備えていくことが大切だ。

12月12日(月)放送分

石巻市北上 農事組合法人みのり 千葉昭悦さん
野口美和アナウンサー 取材リポート

石巻市北上の農事組合法人みのりでは、120haの土地で稲作をメインに営む。農業を始めて50年以上の千葉さんは、8年前にオリーブ栽培を始めた。石巻市が津波被害の大きかった土地の活用方法を模索していたところ、塩害に強いオリーブが注目された。当初、千葉さんは見たことも触ったこともないオリーブの栽培に不安だったそう。香川県小豆島の農家の方から指導を受け、現在は4haの畑で1350本管理をしている。
北上地区では、津波で多くの家が流された。千葉さんの家もその1つ。何もなくなってしまった土地でオリーブを育てている。「この地区の顔になってほしい。味良く、見た目もよく、ちゃんと地域に貢献できるように」と千葉さんは語る。収穫後は主にオリーブオイルになる。一般的なオリーブオイルよりも緑色、青りんごのようなフレッシュな味。通常よりも早い段階で収穫することで、搾油できる量は少ないものの、栄養価の高いオリーブオイルができるそうだ。今年は250kgのオリーブを収穫し、13Lのエキストラバージンオリーブオイルができた。販売会でも好評だ。千葉さんは北上地区について「風光明媚で、山あり谷あり…田園風景から海まですべてそろうっていうのはないですから。世界遺産にしてもおかしくないんじゃないか」と話す。

東北大学災害科学国際研究所 所長 今村文彦教授
根本宣彦アナウンサー 取材リポート

地震や津波について研究している東北大学の災害科学国際研究所が設立10周年を迎え、10月に記念式典が開かれた。東日本大震災の翌年の2012年4月に設立され、地震や津波のメカニズム、防災に関する研究を進め、情報発信を行ってきた。所長の今村文彦教授にこの10年についてうかがった。
災害研は2つの目標を掲げている。災害科学の分野を進化させることと、実践的防災学でそれぞれの成果が各地域でつかわれるようにすること。研究所の様々な専門分野の研究者約100人が、東日本大震災の被害把握、巨大地震・津波メカニズムの解明、震災アーカイブの整備、被災地支援の実践、災害医学の構築など、着実に成果をあげてきた。
そして地域との関係を深めるとともに国際的な役割も担ってきた。2015年3月、第3回国連防災世界会議が仙台国際センターを中心に開催された。東北大学災害研は、会議の仙台誘致、開催を全面的に支援した。160か国以上から延べ15万人が参加した。課題は国内での周知だと今村教授は話す。
そして今年4月に「レジリエンス共創センター」が発足。あらゆる災害リスクに対して柔軟に対応しながら早く復旧することを目指す。
今後も災害科学の学術研究を発展させながら、東日本大震災などの被災地の復興とともに国内外での総合的な災害軽減を目指していく。

12月5日(月)放送分

石巻市北上町 マルナカ遠藤水産 遠藤俊彦さん
長南昭弘ディレクター 取材リポート

海藻の名産地として有名な石巻市北上町の十三浜。親潮と黒潮が混ざり合い、様々な水産資源に恵まれる。十三浜の港の一つ、大指漁港でわかめやこんぶの養殖と販売を営む「マルナカ遠藤水産」の遠藤俊彦さん。11月半ば、わかめの新芽を海へ放つための作業の「芽付け」を始めていた。朝から家族や親族が総出で作業にかかる。
「マルナカ遠藤水産」の海藻は「仙台ロイヤルパークホテル」のメニューでも提供されている。遠藤さんの努力は十三浜のわかめの地位向上に貢献している。
大指漁港も東日本大震災の津波で大きな被害を受けた。遠藤さんも船と道具を失った。船ができたのは3,4年が経ってから。それまでは周りの船に乗せてもらった。「困ったときはお互い様」で、道具の貸し借りも行った。
優良な漁場である十三浜の環境・恵みを活かしたいと、石巻専修大学と連携を始めた。水温、塩分、酸素濃度、水の流れ方…などを数値化し、データとして蓄積していく。ともに研究を始めた石巻専修大学の太田尚志教授。遠藤さんや大指の漁師とのコミュニケーションをとり続ける中、地元の北上中学校で講演を行った。生徒たちに北上町に面している追波湾の海の環境について話をした。父親がしている仕事について理解するだけでなく、将来自分が担うときに何を目指したらよいのかを考える機会になれば、という思いだった。
「漁師」という現場の仕事と、「教授」という「学術・研究」の仕事が重なり合うことで十三浜の新たな可能性が発掘されていく。そして学んでいく子どもたちが故郷で新たな夢を育んでいく。